
インドの小売市場で、最も勢いのある成長エンジンが静かに姿を変えつつある。「10分で届く食料品宅配」として注目を集めたクイックコマース(Blinkit、Zepto、Swiggy Instamartなど)は2026年に入り、単なる利便性サービスの枠を超え、食料品以外のカテゴリーまで飲み込む新しい小売インフラへと進化している。Redseer Strategy Consultantsの分析によると、2026年1月の月間流通取引総額(GMV)は約1100億ルピーに達し、前年同月比でほぼ倍増した。一方で店舗網の拡大戦略は「面的な拡大」から「効率と収益性」へと軸足を移しており、この転換はインド市場調査やインドマーケティングリサーチを行う日本企業にとっても見逃せない構造変化だ。
GMVは倍増、しかし成長の中身は「食料品」から「非食品」へ
2026年1月のクイックコマース業界全体を見ると、1日あたりの注文件数(OPD)は約780万件に達し、前年同月比で約95%増加した。共和国記念日(1月26日)を含む週には日次OPDが約830万件まで伸び、フェスティブシーズン後も需要が一時的な反動減に終わらず高止まりしている点が特徴的だ。月間取引ユーザー数(MTU)も約5200万人と前年同月比で約95%増加しており、既存ユーザーの利用頻度上昇だけでなく、新規ユーザーの獲得が成長を牽引していることがうかがえる。平均注文単価(AOV、値引き後・配送料除く)は約460ルピーで、地方都市への展開により1件あたりの買い物かごが小さくなりやすい中でも前年同月比約5%増を維持した。
この成長を支えているのが、食料品以外のカテゴリーの急拡大である。非食品カテゴリー全体の成長率は食料品の約1.6倍に達し、なかでもファッションは前年同月比340%増、モバイル関連は245%増と、低い母数からとはいえ爆発的な伸びを見せた。美容・パーソナルケア関連は140%増、ベビー用品は160%増、家具・家庭用品は90%増、オンライン薬局(ePharma)は115%増と、いずれも二桁後半から三桁の伸び率を記録している。かつて生鮮食品・日用品の即時配送サービスとして始まったクイックコマースが、今や化粧品・小型家電・アパレルまで扱う総合小売チャネルへと役割を広げていることを、この数字は物語っている。
ダークストア新設ラッシュと、3社が握る市場シェア
供給網の拡大も続いている。ダークストア(配送拠点)数は2025年12月の約5990店から2026年1月には約6280店へと増加した。業界アナリストの推計では、Blinkit・Swiggy Instamart・Zeptoの3社合計で2026年中に2000〜2500店規模の新規ダークストアが開設される見通しで、主要8都市の高所得者層エリアや、10〜20分配達へのニーズが強い都市コアエリアへの集中投資が目立つ。
注目すべきは、この拡大が単純な店舗数競争にとどまらず「効率」を伴っている点だ。全国平均のダークストア1店舗あたり日次注文件数(OPD)は約1255件で前年同月比約15%改善し、上位プラットフォームに限れば約1350件(同13%増)まで上昇している。地方都市への展開は本来1店舗あたりの生産性を薄める方向に働くはずだが、主要8都市での高い伸びがそれを補って余りある格好だ。一方、後発プラットフォームの効率は上位3社の半分程度にとどまるが、一部の地域市場では1000件を超える例も出てきており、都市ごとの成熟度が今後の収益性を左右する鍵になりつつある。
現在の市場シェアは、Blinkitが約45%、Swiggy Instamartが約27%、Zeptoが約21%、JioMartなどその他プレーヤーが約7%という構図だ(ICICI証券レポート等の業界推定値)。上位3社のGMV成長率は前年同月比約75%で依然として高水準を維持する一方、後発プラットフォームは母数の小ささもあって約4倍のペースで成長しており、上位の優位は揺るがないながらも競争の裾野では変化の兆しが見え始めている。

Z世代とTier2・3都市——次の需要フロンティア
GoogleとDeloitteの共同調査によれば、インドには約2億2000万人規模のZ世代が存在し、2030年までにオンライン消費の約半分を担うと予測されている。「欲しいと思ったら10分で届く」体験を当たり前とするこの世代は、待つことへの許容度が低く、クリエイターの影響を受けた購買が2030年までに小売購買全体の約30%を占めるとの見方もある。加えて、クイックコマースの需要はデリー首都圏やムンバイといった巨大都市の外側、すなわちTier2・Tier3都市にも広がりつつあり、地域によって消費者の受容度やカテゴリー選好が大きく異なる状況が生まれている。
レポートのまとめ
インドのクイックコマース市場は、単純な店舗拡大競争から、非食品カテゴリーの深化とダークストア単位の収益性改善へと重心を移す新しい局面に入った。生鮮食品・日用品中心だった需要構造は、ファッション・美容・小型家電・ギフト用品といった領域へと広がりを見せており、これは日本の消費財・コスメ・雑貨メーカーにとって新たな参入チャネルが生まれていることを意味する。ただし、Blinkit・Instamart・Zeptoの市場シェアや店舗効率、Z世代の消費行動には都市・カテゴリーごとに大きな差があり、全国平均の数字だけで進出戦略を組み立てるのは危うい。実際にどの都市・どのカテゴリーで自社製品が受け入れられるかを見極めるには、現地の消費者調査や流通チャネル調査を伴うインド市場調査、インドマーケティングリサーチが欠かせない。自社のインド進出やクイックコマースチャネルの活用可能性について検証したい場合は、ぜひご相談ください。
出所:Redseer Strategy Consultants「Quick Commerce Finds Its New Normal with Scale, Mix, and Momentum」(2026年2月)、株式会社SoJapan「インドのクイックコマース2026」(ICICI証券レポート等の業界推定値)をもとに作成