
インドの技術者雇用の主役が、伝統的なITサービス企業から欧米企業の「内製拠点」であるGCC(グローバル・ケイパビリティ・センター)へと明確に移りつつある。全国ソフトウエアサービス業協会(NASSCOM)とZinnovが2026年5月に共同発表した最新調査によれば、2026年度(FY26、2025年4月〜2026年3月)にインド国内のGCCは純増で約20万人を新規雇用し、ITサービス企業の11万人を大きく上回った。この差はFY24の6万人対5万人、FY25の11万人対10万人から一気に拡大しており、インドの技術者雇用市場で構造転換が加速していることを示している。今回はこの最新データをもとに、インドGCC市場の実態と日本企業への示唆を整理する。
拠点数2,117社・売上986億ドルへ拡大するインドGCCエコシステム
Zinnov・NASSCOMの「GCC Landscape Report 2026」によれば、2026年3月時点でインド国内のGCC数は2,117社、拠点(ユニット)数では3,728カ所に達し、雇用者数は約236万人にのぼる。市場全体の年間売上高は986億ドルとなり、2年前(FY24)の約650億ドルから急拡大した。GCC数はFY2021以降だけで32%増加しており、フォーブス・グローバル2000企業のうち506社がすでにインドにGCCを構えるほか、中堅企業によるGCCが583社、プライベートエクイティ(PE)系企業によるGCCも504社を数える。かつては「コスト削減のための業務委託拠点」という位置づけが中心だったGCCが、いまや製品開発やAI活用の主導権をインド側が握る「エンタープライズの中枢機能」へと役割を広げている点が、同レポートの最大の指摘だ。実際、Zinnovの成熟度分類によると、単純なコスト拠点にとどまる「Outpost」段階のGCCは全体の13%にとどまり、能力構築が進んだ「Satellite」が43%、製品・プラットフォームを丸ごと所有する「Portfolio Hub」が39%、AI主導で経営機能まで担う「Transformation Hub」が5%を占めるまでになっている。

純増雇用20万人がITサービス企業を圧倒、3年連続の逆転が示す構造変化
人材サービス会社Xphenoのデータによると、FY26のGCCによる純増雇用は約20万人となり、ITサービス企業の11万人を大きく上回った。両者の差はFY24が6万人対5万人、FY25が11万人対10万人とほぼ横並びだったが、FY26に一気に開いた形だ。背景には、これまでアウトソーシングしていた業務を自社の内製拠点に取り込む動きの加速と、ITサービス業界がマクロ経済の逆風で成長鈍化に直面している事情がある。Xphenoの共同創業者Kamal Karanth氏は、GCCの採用計画は3〜5年単位の長期的な人員拡大計画に基づく一方、ITサービス企業は四半期ごとに採用数を調整する傾向が強く、この違いが両者の明暗を分けていると指摘する。象徴的な例として、TCSは新卒採用数を例年の半分にあたる2万人に絞り込む方針を示しており、HCLTechやWiproも新卒採用数の公表を見送るなど、大手ITサービス企業の採用姿勢は総じて慎重になっている。
一方でGCC側の採用も無条件に拡大しているわけではない。人材コンサルティング会社AMSの分析では、インド国内のGCCエコシステムには120,000人超のAI・機械学習人材と185以上のAI/ML専門センターが存在するが、2026年3月時点の主要GCCの求人動向を見ると、高度なAIエンジニアリング職の募集はGCC全体の採用数に比べてまだ限定的だという。多くの企業が少数の専門人材チームと社内リスキリング、パートナー企業との連携を組み合わせながらAI活用を進めている段階であり、統治体制やプラットフォームの整備はこれから本格化する局面にあるとAMSのアジア太平洋地域マネージングディレクター、Roop Kaistha氏は分析している。

レポートのまとめ
今回のデータが示すのは、インドの技術者雇用市場が「アウトソーシング型のITサービス」から「内製型のGCC」へと重心を移しつつあるという構造変化である。GCC数は2,117社・売上986億ドルの規模に達し、フォーブス・グローバル2000企業の4社に1社近くがすでにインド拠点を持つ。純増雇用でもGCCがITサービス企業を3年連続で上回り、その差はFY26に大きく拡大した。ただしAIエンジニアリングのような高度人材の採用は依然として選別的であり、量的拡大と質的な成熟にはまだ距離がある。日本企業にとっては、インド進出の選択肢としてGCC設立を検討する動きが今後さらに広がる一方、優秀な技術人材の獲得競争は年々激しさを増しており、拠点の立地選定や人材市場の実態を踏まえた事前の市場調査の重要性が増している。インド市場調査やインドマーケティングリサーチを通じて、自社に適した進出モデルや人材確保の見通しを見極めたいという企業様は、ぜひ弊社にご相談ください。
出所:Nasscom-Zinnov「India GCC Landscape Report 2026(The GCC Value Orbit)」、Business Standard「GCCs trump IT services sector in net hiring for third consecutive year」(2026年5月20日)データ提供:Xpheno、AMS