インドの自動車市場は2025年時点で世界第3位の生産規模を誇り、市場規模は約2,500億ドルに達する。その一方で、2021年の国家家族保健調査によれば自動車(四輪車)を保有する世帯はわずか8%にとどまり、二輪車・スクーターの保有世帯は54%にのぼる。つまりインドの自動車市場は、四輪車ではなく二輪車を主役とする独特の構造の上に成り立っている。本稿ではこの構造を踏まえながら、電動化(EV)シフトの現在地、政策動向、そして日系メーカーの立ち位置を、公表統計に基づいて整理する。
二輪車中心の市場構造
2024年度のインド国内販売台数を見ると、二輪車が約1,960万台(全体の77%)、乗用車が約430万台(17%)、商用車が約96万台(4%)、三輪車が約74万台(3%)となっている。2025年時点で人口1,000人あたりの乗用車保有台数は44台にとどまり、主要経済国と比べて依然として大きな開きがある。この構造は電動化の進み方にも直結しており、価格帯の低い二輪・三輪セグメントほど電動化への切り替えが進みやすいというインド特有の力学が働いている。

出所:SIAM関連統計(2024年度国内販売台数)を基にCasley India算出
政策動向:国の目標と州ごとの温度差
インド政府は2012年の国家電気モビリティ・ミッション計画(NEMMP)で「2030年までにEV普及率30%」という目標を掲げ、2021年には生産連動型優遇策(PLIスキーム)として、EV・水素燃料車の生産向けに2兆6,000億ルピー(約36億ドル)、次世代蓄電池(ACC)向けに1兆8,000億ルピー、FAME事業に1兆ルピーを投じる枠組みを打ち出した。もっとも、実際の普及ペースは州によって大きく異なる。例えばウッタル・プラデーシュ州は2022年のEV政策で「2024年末までに100万台のEV普及」を目標に掲げ、2023年時点で同州はインド全体のEV市場の14%超、電動三輪車に限れば40%超のシェアを占めるに至った。グジャラート州も独自のEV政策導入後、2022年にはEV販売が前年比950%増(Financial Express報道)という急伸を記録している。全国一律の制度として捉えるのではなく、州ごとの補助金額・目標年次・対象車種の違いを踏まえて市場参入戦略を組み立てる必要がある。
メーカー別に見る競争構図

出所:2024年インド国内乗用車販売実績(各社発表・SIAM関連統計)を基にCasley India作成
2024年の乗用車販売シェアは、マルチ・スズキが40.9%で首位を維持し、ヒュンダイ14.1%、タタ・モーターズ13.1%、マヒンドラ12.4%、トヨタ7.0%、キア5.7%、ホンダ1.6%と続く。ただしこれは内燃機関車を含む乗用車市場全体の構図であり、EVセグメントに限るとタタ・モーターズやマヒンドラなど地場メーカーが先行しているのが実情だ。日系メーカーの対応は各社で異なり、マルチ・スズキは主力のハイブリッド戦略を軸にしつつEVラインアップの拡充を計画し、トヨタはハイブリッド・EV・CNGを並行展開するマルチパスウェイ戦略を採用、ホンダは二輪EVへの投入を進めている。全体シェアで先行する日系メーカーも、EVという個別セグメントでは後発としての立ち位置にあるというねじれが、今のインド市場の特徴といえる。
レポートのまとめ
インドの自動車市場は二輪車が販売の77%を占める構造の上に成り立ち、電動化もこの構造を色濃く反映して進んでいる。国としては2030年までにEV普及率30%という目標とPLIスキームによる財政支援を掲げる一方、実際の普及速度はウッタル・プラデーシュやグジャラートのように州ごとの政策や補助金設計によって大きく異なる。メーカー別に見ると、乗用車市場全体ではマルチ・スズキをはじめとする既存プレイヤーが依然として強いが、EVという個別セグメントに限ればタタ・モーターズやマヒンドラといった地場メーカーが先行しており、日系メーカーは全体シェアでの強さとは裏腹に、EV領域では戦略の再構築を迫られている。
インド市場は全国一律ではなく、セグメント別・州単位で状況が大きく異なる市場である。最新動向の確認や現地パートナー候補の選定について、当社まで気軽にご相談ください。