
2025年のチェイナリシス「グローバル暗号資産普及指数」で、インドは3年連続となる世界1位の座を守った。米国、パキスタン、ベトナム、ブラジルを抑え、同指数が測定する4つのサブ指標すべてでトップを獲得しており、規制環境の厳しさを考えると際立った結果だ。仮想デジタル資産(VDA)の譲渡益に一律30%の税率が課され、さらに取引ごとに1%の源泉徴収(TDS)が発生する、世界でも屈指の重課税国でありながら、なぜインドの暗号資産市場は拡大を続けるのか。本レポートでは、インド市場調査の観点から普及の実態と規制動向を整理し、インドビジネスを検討する日本企業が押さえておくべき論点を解説する。
世界一の普及率が示す市場の厚み
チェイナリシスの推計によると、2024年7月から2025年6月までの1年間にインドが受け取った暗号資産の総額は約3,380億ドルに達した。インドの税務当局は2026年5月末時点で、約3,900万人の投資家が合計約21億ドル相当の暗号資産を保有していると推計しており、市場調査会社の予測では2026年のインド暗号資産市場の売上高は91億ドルに達するとされる。投資家層の6割超を35歳未満が占めている点も特徴で、モバイル完結型の取引アプリを通じて若年層が市場拡大の主役となっている構図が浮かび上がる。
重い税負担でも拡大が止まらない理由
2022年度の税制改正以降、インドの暗号資産税制は仮想デジタル資産の譲渡益に一律30%の税率を課し、年間1万ルピー(少額投資家は5万ルピー)を超える取引には1%のTDSを源泉徴収する仕組みが続いている。加えて、暗号資産取引で生じた損失を他の所得と通算できないなど、損益通算の面でも投資家に厳しい設計となっている。それでも取引が縮小しない背景には、株式や不動産といった伝統的資産に比べて参入障壁が低く、少額から始められるデジタル資産特有の心理的ハードルの低さがある。業界団体は税率とTDSの引き下げを繰り返し政府に要望しているが、2026-27年度予算および2026年4月に施行された所得税法2025においても、既存の課税枠組みは維持されたままだ。
規制強化が進む2026年の実像
2026年2月10日、インド財務省は国会答弁で仮想デジタル資産について「引き続き法的な規制対象ではない」との立場を示した。一方で同年3月の国会でも、全面規制や禁止の提案は検討されていないことが確認されている。つまり「合法化はしないが禁止もしない」という曖昧な位置づけが続いているのが実情だ。その一方で、金融情報機関であるFIU-INDは2026年1月、ライブセルフィーによる本人確認、位置情報付きの口座開設手続き、少額入金によるペニードロップ方式の銀行口座確認、ミキサーや匿名性の高いトークンの取り扱い禁止などを盛り込んだAML/CFTガイドラインを更新した。現在54の仮想デジタル資産関連事業者(VDASP)がFIU-INDに登録されており、2026年4月からは取引所が取引データを所得税当局と直接共有する義務も始まっている。規制の枠組みそのものは定まらないまま、モニタリングと執行だけが着実に強化されているのが2026年のインド暗号資産市場の特徴と言える。
レポートのまとめ
インドの暗号資産市場は、世界最高水準の税負担という逆風の中でも、若年層を中心とした投資家層の拡大によって世界一の普及率を維持している。規制の方向性は「禁止せず、しかし野放しにもしない」という独自路線を歩んでおり、税制・KYC・取引モニタリングの各面で当局の管理は年々精緻化している。この動きは暗号資産分野に限らず、フィンテック全般や決済分野でインドビジネスを検討する企業にとっても、規制環境の変化を継続的に把握することの重要性を示す事例と言える。今後はインド市場調査や業界動向調査を通じて、規制当局の出方と消費者行動の両面を継続的にモニタリングすることが、参入戦略の精度を高める鍵となるだろう。
インド市場における暗号資産・フィンテック分野の動向や規制対応について詳しく知りたい方は、ぜひ弊社にご相談ください。
出所:Chainalysis “2025 Global Crypto Adoption Index” / “2025 Geography of Cryptocurrency Report”、インド財務省国会答弁(2026年2月・3月)、FIU-IND AML/CFTガイドライン(2026年1月)、各種業界レポートに基づきCasley India作成。