
インドの航空業界は、コロナ禍からの回復を経て世界でも有数の成長市場としての地位を固めてきた。2023年から2025年にかけて国内線旅客数は二桁成長を記録し、IndiGoやAir Indiaは相次いで数百機規模の航空機発注に踏み切った。しかし2026年に入り、その成長ペースには変化の兆しが見え始めている。インド民間航空局(DGCA)が公表したデータによれば、旅客数の伸び率は上半期から下半期にかけて鈍化しており、単月ベースでは前年割れも記録した。一方で、首都圏の新拠点空港であるノイダ国際空港(通称ジェワール空港)の商業運航が2026年6月に始まったほか、地方連結性を強化する修正UDAN制度が承認されるなど、インフラ投資と航空会社の機材拡張は依然として加速している。旅客需要の踊り場と供給側の積極投資という、やや対照的な二つの動きが同時進行しているのが2026年のインド航空市場の実像だ。
国内線旅客数の伸びが鈍化、7月は前年割れ
DGCAの統計によれば、2026年上半期(1〜6月)の国内線定期旅客数は約8,640万人となり、前年同期の約8,517万人から1.44%増加した。1〜7月の累計でも約9,840万人(前年同期比0.64%増)とプラス成長は維持しているものの、伸び率は明らかに縮小傾向にある。単月データではさらにはっきりとした変化が確認でき、7月単月の国内線旅客数は約1,200万人と、前年同月比で約4.8%減少した。IndiGoは国内線シェア67.4%を握る圧倒的な最大手として市場を主導し続けているが、2025年通年の国内線旅客数1億6,690万人という高水準からの伸びしろは徐々に狭まりつつあり、需要が踊り場に差し掛かっていることを示すデータといえる。

出所:インド民間航空局(DGCA)発表データおよび報道(Deccan Herald、Indian Aviation News、2026年)を基に作成
ジェワール空港開業とUDANで進む空港インフラ整備
需要面での足踏みとは対照的に、供給側のインフラ投資は加速している。総事業費約2兆9,560億ルピー(うちフェーズ1だけで約1兆1,200億ルピー)を投じたノイダ国際空港(ジェワール空港)は2026年3月28日に開港式典を行い、同年6月15日にIndiGoのラクナウ発便を皮切りに商業運航を開始した。フェーズ1の年間処理能力は1,200万人にとどまるが、4段階の拡張計画が完了すればデリー首都圏で年間約7,000万人を処理できる規模となり、慢性的に混雑するデリー(インディラ・ガンディー国際空港)の受け皿として機能する見通しだ。あわせて2026年3月には、地方都市の航空アクセスを補助する修正UDAN制度が閣議承認され、2026〜27年度から2035〜36年度までの10年間で総額2,884億ルピーを投じ、未活用の飛行場を含む100空港の開発を進める計画が動き出した。過去9年間の累計利用者数が156万人にとどまっていたUDANの実績を踏まえ、政府は2047年までに対象空港を350〜400カ所へ拡大する長期目標を掲げている。
IndiGo・Air Indiaが進めるフリート倍増計画
航空会社側の投資意欲も旺盛だ。IndiGoは2026年6月末時点で432機だった保有機材数を、2030年までに600機規模へ拡大する方針を明らかにしており、既発注分だけで900機を超える。なかでもエアバスA350-900広胴機の発注数は当初計画から倍増の60機に達し、2028年からの納入開始を予定するなど、国際線・長距離路線への本格参入を見据えた布石を打っている。Air Indiaもボーイング787やA350の新規導入・改修(レトロフィット)を並行して進めており、両社とも国内線での量的拡大に加え、国際線での存在感強化を次の成長の柱に据えている構図が浮かび上がる。
レポートのまとめ
2026年のインド航空市場は、旅客需要が一時的に踊り場を迎える一方で、ジェワール空港の開業やUDAN制度の拡充、IndiGo・Air Indiaによる大規模な機材発注など、中長期を見据えた供給投資が途切れることなく進んでいる。市場全体では2030年までに約260億8,000万米ドル規模、年平均12.03%の成長が見込まれており、短期的な旅客数の伸び鈍化が構造的な需要減少を意味するわけではない。むしろ空港容量やフリート規模といった供給制約が緩和されることで、次の成長局面に向けた土台が整いつつある段階と捉えるべきだろう。日本企業にとっても、航空インフラ整備や地方都市とのアクセス改善によって新たに広がる商圏など、インド市場調査を通じて把握すべき変化は多い。インド進出支援を検討される際の参考情報として、旅客動向や地域別の需要構造、競合状況の詳細にご関心があれば、ぜひキャスレーインディアにご相談ください。