インドの金市場が、価格高騰という逆風の中で興味深い構造変化を見せている。世界貴金属協会(World Gold Council、以下WGC)が2026年7月30日に公表した最新レポートによると、2026年4-6月期(Q2)のインドの金需要は131トンと前年同期比6%減少した一方、金への支出額はインドルピー建てで1兆9,790億ルピー(約209億ドル)と、同四半期として過去最高を記録した。数量は減っているのに支出額は最高値という一見矛盾した現象の裏には、インドの消費者が「宝飾品」から「投資商品」へと金の買い方そのものを変化させている実態がある。本レポートでは、インド市場調査の観点からこの構造変化を整理し、インドビジネスを検討する企業への示唆を探る。
記録的高値でも支出は最高:Q2 2026の需要動向
WGCによると、2026年Q2の国内金価格(MCX)は前年同期比で約59%上昇し、ロンドン地金市場(LBMA)の平均価格も37%上昇した。5月中旬の輸入関税引き上げやルピー安も価格を押し上げる要因となった。この結果、ジュエリー需要は数量ベースで前年同期比15.4%減の75.1トンにとどまった一方、金額ベースでは前年同期比34.4%増の1,132億ルピー(約12億ドル)に達している。インドはこの四半期も世界最大の金ジュエリー市場であり続け、世界需要の27%を占めた。地金・コイン投資は前年同期比8.9%増の50.3トンとなり、2025年から2026年第1四半期にかけての強い伸びからは減速したものの、2000年以降の長期平均(四半期49トン)を上回る水準を維持している。上半期(H1)で見ると地金・コイン需要は112.5トンと過去13年で最高を記録した。

「宝飾」から「投資」へ:消費者行動の変化
WGCが2026年5月22日から6月3日にかけて主要12都市の消費者1,963人を対象に実施した調査(WGC-Kantar調査)では、金の購入意欲がジュエリーよりも投資商品(地金・コイン・ETF等)に対して強いという結果が示された。高騰する価格を背景に、消費者は軽量・低カラット・スタッド(宝石装飾)のジュエリーへとシフトしており、小売店では従来の金製品を下取りに出して新製品を購入する「エクスチェンジ(交換)」型の購入が拡大、一部の小売店ではこの方式が売上の最大70%を占めるまでになっている。金ETFも上半期の需要が24トンと前年比163%増の過去最高を記録し、運用資産残高(AUM)は1兆7,000億ルピー(約176億ドル)に達した。価格上昇局面では投資需要が押し上げられ、逆に四半期単位での価格の一服局面では新規購入が鈍る、という値動き敏感な消費行動が鮮明になっている。
ゴールドローン急拡大と、迫る祭事シーズンの商機
金価格の高騰は新たな金融ビジネスの拡大にもつながっている。家庭が保有する金を担保に現金を借り入れる「ゴールドローン」の残高は、2026年5月末時点で銀行分が5兆1,000億ルピー(約540億ドル、前年比105%増)、ノンバンク(NBFC)分が3兆3,000億ルピー(約345億ドル、前年比70%増)に達し、住宅ローンに次ぐ規模の小口融資セグメントに成長した。金を手放さずに流動性を確保できる担保融資として、金価格上昇局面で急速に存在感を高めている形だ。一方で小売現場では、2026年8月28日のラクシャーバンダンを皮切りに、ダンテラスやディワリへと続く祭事・婚礼シーズンを控え、小売店が在庫積み増しを進めている段階にある。WGCは価格が高止まりする中でも、婚礼・祭事関連の需要は相対的に底堅く推移すると見ており、価格の安定ないし小幅な下落局面では駆け込み購入が発生しやすい点も指摘している。
レポートのまとめ
2026年のインド金市場は、記録的な価格高騰の中で「量は減っても金額は増える」という構造が定着しつつある。消費者は軽量・低カラット製品やエクスチェンジ購入で価格上昇に適応する一方、投資目的の地金・コイン・ETF需要は着実に拡大し、ゴールドローンという新たな金融商品も急成長している。ジュエリー小売、貴金属担保融資、資産運用商品のいずれの分野でも、価格に敏感でありながら金という資産への信頼は揺るがないインド消費者の姿が浮かび上がる。日本企業にとっても、軽量ジュエリーのデザイン・製造技術や、担保融資・資産運用分野のノウハウを活かせる余地は小さくないだろう。ラクシャーバンダンから年末のディワリへと続く祭事シーズンの消費動向を注視しつつ、価格変動に応じて揺れ動く消費者心理を継続的に把握することが、インド市場での事業機会を見極める鍵となる。インド金融・小売市場の消費者調査や市場分析についてご検討の企業は、ぜひ弊社にご相談ください。
出所:World Gold Council「Gold Demand Trends: India Focus Q2 2026」(2026年7月30日公表)、Reserve Bank of India Financial Stability Report(2026年6月)に基づきCasley India作成。
